横浜日独協会

ドイツ連邦議会選挙の結果と今後の展望 -極右台頭より重要な変化-

横浜日独協会会長 成川 哲夫(2025年4月)

2025年2月23日に行われたドイツの総選挙は、日本国内でも大きな注目を集めた。特に「ドイツのための選択肢(AfD)」が前回選挙の約2倍の得票率を獲得したことから、「欧州の最後の砦が崩れつつある」との論調が日本メディアでは目立った。しかし、今回の選挙結果を冷静に分析すると、むしろドイツの政治は安定化に向かう可能性が高い。極右の台頭だけでなく、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が第1党となり、社会民主党(SPD)との連立が確実視されていることこそ、今後のドイツ、ひいてはヨーロッパの未来を左右する重要なポイントである。

(1)CDU/CSU-SPD連立の可能性と政策運営の安定化
CDU/CSUとSPDの連立は、過去にも「大連立(Große Koalition)」として経験があるが、現在のドイツの状況を考えると、以前とは異なる意義を持つ。これまでの3党連立(SPD、緑の党、自由民主党)は政策の方向性が一致せず、エネルギー政策、財政規律、外交方針などでたびたび足並みが乱れた。そのため、ドイツ国内外の投資家や経済界からは、政策の不透明さに対する懸念が高まっていた。
しかし、CDU/CSUとSPDの連立が成立すれば、政策決定のスピードが上がり、特に防衛費の増額、産業政策への資金投入、エネルギー問題への対応がより現実的になる。欧州全体の安全保障環境が厳しさを増す中、ドイツの防衛力強化がよりスムーズに進む可能性がある。

(2)極右の限界とドイツの政治潮流
AfDの躍進が欧州全体の極右台頭と連動していると見られがちだが、必ずしもそうとは言い切れない。AfDは一般に極右政党と見なされるものの、党内には2015年の難民危機を契機にCDU内の右派の一部が流入するなど、異なる政治的背景を持つ勢力が混在している。また、AfDのトランプ大統領との関係強化は、同氏のウクライナ政策に対する反発が高まる中、支持層の一部離反を招く可能性もある。
ドイツ国内ではAfDの台頭に対する警戒感が広がり、特に都市部や若年層ではリベラル派の結束が強まる傾向が見られる。今後、AfDのさらなる伸長を抑え込めるかどうかは、新政府が移民政策の改革に取り組み、産業政策を通じて国内産業の競争力を強化し、経済活性化をどこまで実現できるかにかかっている。

(3)ドイツ経済の課題と日本企業の経験からの示唆
ドイツ経済が直面する最大の課題は、高いエネルギーコストを前提とした産業構造の再構築である。ロシア産エネルギーの供給停止後、ドイツの製造業は競争力低下に直面し、一部の産業では海外移転の動きが加速している。ここで参考になるのが日本企業の経験である。日本も過去、円高と米国との貿易摩擦によって生産拠点の海外移転を余儀なくされ、結果的に国内産業の空洞化を招いた。ドイツはこの教訓を活かし、単なるコスト削減のための移転ではなく、エネルギー効率の高い産業構造への転換を進める必要がある。エネルギー政策の見直しやエネルギー多消費産業の適切な配置が求められるだろう。

(4)トランプ再登場と日独の戦略
トランプ氏が再登場し「米国第一主義」を掲げている。対中制裁関税の強化や日独製品への高関税措置が取られる可能性が高い。特に、自動車産業やハイテク分野への影響は大きく、北米市場での競争環境が一変する恐れがある。この状況下で、日独はサプライチェーンの強靭化に加え、関税リスクを軽減する戦略を強化する必要がある。北米市場での現地生産拡大は不可避であり、リスク分散のためにも、日独合弁事業の増加が有効な手段となる。また、米国依存を抑えるため、東南アジアやインドでの共同投資やインフラ開発など、新興市場での協力も重要な選択肢となる。

(5)ウクライナ問題と欧州防衛の行方
米国がウクライナ支援を停止し、ロシアとの「条件付き停戦」に向かう可能性が高まっている。この場合、欧州諸国は防衛自主化を加速せざるを得なくなる。
しかし、ドイツを含むEU諸国が短期間で米国の軍事的役割を補完することは困難であり、フランス・ドイツ・ポーランドの連携強化などを通じ、米国の後ろ盾を維持しつつ時間を稼ぐ必要がある。

(6)欧州の自立と日独協力の可能性
米国主導の集団安全保障体制が崩壊の危機にある中、ドイツはEU内で防衛協力を進める選択肢を持つ。
一方、日本はアジアに同様の枠組みがなく、日米安保の片務性を考えれば、トランプ政権下でさらなる負担増を強いられる可能性は高い。しかし、日本が取るべき対応は受動的なものではなく、より戦略的であるべきだ。防衛力の強化と同時に、西側諸国のみならずグローバルサウスの国々とも経済・技術・エネルギー分野での可能な協力を深化させ、広範な安全保障ネットワークを構築する道がある。特に、欧州との連携強化はエネルギー安全保障や防衛産業分野での協力を拡大する契機となる。日本の選択は、単に自国の未来を左右するだけでなく、国際秩序全体にも大きな影響を与える。その意味で、今回のドイツ総選挙は、日本にとっても重要な示唆を含む出来事と言えるだろう。

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