横浜日独協会

激動する世界の中で、日独の企業はどこへ向かうべきか

横浜日独協会会長 成川 哲夫(2025年7月)

いま世界は、歴史の転換点ともいえる激動の時代に突入している。国際秩序は大きく揺らぎ、地政学リスクと経済リスクが一体となって連動し、これまで「安定」と考えられてきた枠組みや信頼が根底から問われている。グローバル化によって社会の結びつきが強まり、一つの大国の方針転換が全世界の産業や人々の生活に即座に波及する現実を私たちは目の当たりにしている。

(1)トランプ政権の政策転換とグローバル経済への影響
アメリカではトランプ大統領が今年再び就任し、「アメリカ・ファースト」を掲げた対外政策を矢継ぎ早に打ち出している。5月にはすべての国に一律の追加関税を課し、これを個別交渉を通じて緩和する新たな通商枠組みを示した。中国に対しても高関税を課し、部分的に関税引き下げの合意が成立したが、抜本的な対立の解決には至っていない。こうしたアメリカの姿勢は、従来の多国間協調やルールに基づく国際秩序を揺るがし、アメリカ自身の国際社会における地位や信頼を損ねている。結果としてグローバル・サプライチェーンの安定性が脅かされ、世界経済の先行きは一段と不透明さを増している。
さらにアメリカは同盟国に対しても従来の信頼を前提としない姿勢を見せ、各国の企業や政府は将来予測の難しさに直面している。多国間協定からの離脱や再交渉要求が相次ぎ、政治的な意図が経済の安定や持続可能性よりも優先される場面が増えている。こうした動きは国際協調の精神に根本的な問いを投げかけ、ビジネス環境の不確実性がかつてなく高まっている。

(2)日本企業の課題と戦略の転換
日本企業の多くは長らくアメリカ市場を成長と収益の源泉としてきた。今も多くの企業が米国事業を基軸とし、現地生産や直接投資を積極的に拡大している。こうしたこれまでの方針は合理的だったが、現在のアメリカの政策動向は、突発的な「例外」ではなく、日常的かつ構造的な経営リスクとして捉え直すべき局面と言える。米国偏重の事業展開だけでは十分と言えず、アジアや欧州、新興国への分散投資や調達・生産体制の多元化など、多軸型のグローバル経営が今後の成長のカギとなるだろう。経済安全保障の観点からも、サプライチェーンや市場展開のリスク分散を図り、環境変化に柔軟に対応できる体制づくりが急務である。
グローバルサプライチェーン再編は、実際に多くの企業現場に課題と変革をもたらしている。従来の米国・中国を軸にした生産や調達は、いまやASEAN諸国やインド、欧州域内への分散・移管が進みつつあり、為替や物流、規制の変動にも備える経営が求められている。地域間競争も激化し、現地化のスピードや人材確保、法規制への適応など、多様な課題に応じた柔軟な戦略が問われている。

(3)新たな段階に入ったドイツの戦略転換
ドイツも今年発足したCDUメルツ政権の下、憲法の財政規律を大幅に緩和し、GDP比5%という積極的な防衛予算を掲げている。防衛力強化とインフラ再整備に向けて前例のない資金投入を決断し、欧州の安全保障で中心的役割を担う姿勢を明確にした。
また、エネルギー面では脱ロシア依存を徹底しつつ、再生可能エネルギーの拡大だけでなく、LNGや火力発電、原子力の再評価など、バランスの取れたエネルギーミックス政策へと方向転換を図っている。エネルギー安定供給と脱炭素、そして経済競争力の維持をどう両立させるか、ドイツは現実的かつ多面的な対応を模索している。加えて、人口減少や高齢化といった構造的な課題も抱える。人材不足を補うための移民政策の在り方や、産業転換に伴う中小企業の競争力維持、中国との経済関係、EU内部での調整など、多様な課題が依然として山積している。こうした課題解決に向けて日独間の情報共有や政策対話の深化も今後重要性を増すだろう。

(4)日独連携の新たな可能性と展望
このような時代にあって、日独両国が協力し、補完関係を強化していく意義はかつてなく大きい。両国は法の支配、自由経済、民主主義という価値を共有し、国際社会の安定と秩序維持に責任を担う先進国である。自動車や機械、化学、半導体、再生可能エネルギーなど多分野で実績があるが、AIや量子技術、カーボンニュートラルなどの先端領域でも、今後協力を深める必要がある。特に地方都市間や中小企業の技術協力、若手人材交流など草の根レベルの取り組みも求められている。今後は官民を挙げてこうした分野を戦略的に強化すべきである。
環境問題や社会課題への取り組みでも日独は大きな可能性を有している。気候変動やエネルギー転換、サステナブル社会の実現に向けて、それぞれの強みを生かしイノベーションと政策連携を推進すれば、世界的な課題解決の先導役も期待できる。

(5)未来志向の連携と人材育成の重要性
未来を切り拓くのは若い世代の国際意識と柔軟な発想であり、日独間での教育・人材交流、現場レベルのネットワーク形成が極めて重要である。双方が歴史や文化、産業構造の違いを学び合い、世界の変動に主体的に向き合う力を養うことが両国の発展の礎となる。将来のグローバルリーダー育成に向けたプログラムや、学生・若手研究者の交流促進も今後の協力の重要な柱となるはずである。日独両国が知恵と覚悟を持って連携し、不確実性の時代を共に切り拓いていく責務を果たすべき時ではないだろうか。

会長記事一覧へ

横浜日独協会情報

〒247-0007
横浜市栄区小菅ケ谷 1-2-1
 地球市民かながわプラザ
 NPOなどのための事務室内
事務局:津澤
お問い合わせフォーム
入会案内
入会申込フォーム

個人情報保護方針
NPO法人関連書類