会長新春メッセージ - 永続対立の時代と日独の架け橋
横浜日独協会会長 成川 哲夫(2026年1月)
新しい年を迎え、会員の皆さまにはお健やかにお過ごしのことと存じます。昨年も横浜日独協会の活動に温かいご支援とご協力を賜りましたことを心より御礼申し上げます。振り返ってみますと、世界のニュースは一年を通じて、決して穏やかな話題ばかりではありませんでした。 ロシアによるウクライナ侵攻はなお終わりが見えず、中東でも深刻な紛争が続いています。米中の対立も長期化し、かつて「平和の配当」と呼ばれた時代から、緊張と対立が常態化した「永続対立」の時代へと移りつつあると感じさせられる出来事が相次ぎました。
こうした中で、日本とドイツはともに、戦後長く自由で開かれた国際秩序の恩恵を受けてきた国として、またアメリカとの同盟関係に安全保障を依存してきた国として、難しい舵取りを迫られています。 日本はインド太平洋で、中国や北朝鮮という近隣の安全保障上の懸念に直面し、ドイツはヨーロッパの一員として、ロシアの侵略戦争と向き合っています。 私はこの10年ほど日独双方の有識者が集まる「日独フォーラム」に委員として継続的に参加して来ましたが、昨年12月初めにもベルリンで開かれた会合で、こうした課題について議論に参加する機会を得ました。
日独フォーラムは、日本とドイツの政界・官界・財界、そして学界などの有識者が毎年一堂に会し、その年ごとのテーマについて議論し、その成果を両政府に提言として届ける場です。今回の会合では、「新たな世界秩序と日独の対米関係」に加え、経済安全保障やサプライチェーンの課題、
さらに「国境を越えた宇宙の活用と日独協力の将来」などが取り上げられました。 会議は比較的少人数で行われ、参加者一人ひとりが自らの経験や問題意識をぶつけ合う非常に密度の濃い議論となりました。私からは、企業の立場から経済の基盤を支え雇用と税収を生み出している企業と政府サイドの一層緊密な連携を提起しました。
宇宙分野については、JAXAとドイツ航空宇宙センター(DLR)による共同研究や、衛星データの防災・気候変動対策への活用、宇宙ごみ対策など、すでに進んでいる日独連携を土台に、 今後どのような協力が可能かが活発に論じられました。宇宙というと少し遠い世界の話のようにも聞こえますが、通信や地図、気象情報、海運・航空の安全確保など、私たちの日常生活や横浜の港湾機能とも深く結びついたテーマであることを、あらためて実感させられました。
こうした議論に加わりながら、私には横浜と横浜日独協会の活動も頭に浮かんでいました。日独フォーラムは、国家レベルでの安全保障や経済政策、宇宙協力といった「上からの対話」の場と言えるかもしれません。
一方で、横浜日独協会の活動は、講演会や根岸墓前祭への協力、オクトーバーフェスト訪問、ドイツゆかりの場所への訪問など、「市民の側からの対話」を少しずつ積み重ねていく営みです。 規模もまた扱うテーマも異なることが多いですが、いずれも日独が長く信頼関係を築き、
その上に新しい分野での協力を重ねていくという、大きな流れの中につながっていると感じます。
私はその点に、両者の間の連続性を見い出します。現在の日独関係そのものは、お互いに信頼と友好に支えられた安定した関係にありますが、それでも、世界全体で緊張が高まりやすい時代だからこそ、相手の国のことをよく知り、その社会や文化に親しみを持つ市民が各地にいることは、 将来どのような状況になっても揺らぎにくい土台になります。 ドイツに関心を持つ日本の学生や、横浜での生活を楽しんでいるドイツ人留学生、そして長年ドイツと縁のある市民の皆さん―こうした人と人とのつながりは、一度できると簡単には消えませんし、宇宙や経済安全保障といった新しい協力分野を支える「見えない基盤」にもなっていくはずです。
横浜は、開港以来、世界に向けて開かれた港町としての歴史を歩んできました。ドイツとの関係も長く、経済・文化・学術のさまざまな分野で交流が続いています。 横浜日独協会は、その歴史のごく一部分を預かる存在に過ぎませんが、「永続対立」の時代であればこそ、横浜からドイツへと架け橋をかけ続ける役割は、 むしろ重みを増しているのではないかと思います。戦争中不慮の事故で命を落とした人々を悼む根岸墓前祭への協力も、若い世代と共にオクトーバーフェストや音楽会を楽しむことも、 その両方が日独関係の厚みを生み出していると感じます。
今年も、例年通りの講演会をはじめとするさまざまな交流に加え、若い世代や新しい会員の皆さまにも参加していただけるような試みを続けていきたいと考えています。 ベルリンの日独フォーラムで感じたこと、考えたことも、折に触れて月例会や会報の場で皆さまと共有しつつ、横浜ならではの日独交流のかたちを一緒に育てていければと思います。 世界の情勢は、今年も決して楽観できるものではないかもしれません。それでも、横浜の日常の中で、ドイツという国に静かに思いを馳せる人の輪を広げていくことは、きっと意味のある営みだと信じています。 本年もどうか変わらぬご支援とご参加を賜りますよう、心よりお願い申し上げます
