横浜日独協会

ソビエト連邦/ロシアという国への一考察(1)

横浜日独協会会長 成川 哲夫(2022年10月)

2022年2月24日、ロシアはウクライナに軍事侵攻し世界を驚かせた。これに対抗して西側諸国はロシアに厳しい経済制裁を課し、こうした動きを切っ掛けに世界はエネルギー危機、食糧危機に陥り、エネルギーの対ロシア依存が高かった欧州、特にドイツへの影響は計り知れない。8月末現在で6ヶ月が経過したが、戦争の終結は見えない。今後戦闘が停止されるまでは、まだ一定の期間が必要になると思われる。なぜならロシア側のウクライナに対する軍事侵攻の目的は、単に領土の要求にとどまらず、ウクライナそのものの主権の要求と言えるからである。 攻撃を受けた訳でもない隣国に突然軍事侵攻し、その(事実上の)主権を獲得するまで戦闘を続けるという行為は、我々から見れば全く信じがたい行為であるが、しかしロシア(ソ連)は彼らが自らの勢力圏内にあるべきと認識している国に対して、過去にも同様の行動を取って来た。

1956年10月、ハンガリーでのソ連やハンガリー共産党政権の支配に反対する民衆による全国規模のデモ行進・蜂起に対し、ハンガリー政府の要請を受けたとしてソ連軍がハンガリーに侵攻、その鎮圧によって市民約3000人が亡くなり、20万人以上が難民となり国外へ亡命したとされる。

また、チェコスロバキアの自由化政策 (プラハの春) に対して 1968年8月にソ連軍等は突如軍事介入を行った。チェコでは,非スターリン化の遅れ、経済停滞等への不満を起因として、68年1月に党中央総会で A.ドプチェクが党第一書記に就任し、人事の刷新、検閲の廃止、政治的自由の回復、経済改革等を大胆に進めはじめたが、チェコの自由化が他の東欧諸国に広がるのを恐れたソ連は他の東欧諸国とともに8月20日夜に突如20万の軍隊を送りチェコ全土を占領、指導者を逮捕、モスクワへ連行するという、いわゆるチェコ事件が発生している。

昨年末以降高まったロシアのウクライナ軍事侵攻への危機感に対して、多くのソ連/ロシア研究者達の意見は、「ロシアのウクライナへの侵攻はない」というものが大勢であったように思う。一方で、定期的に国際情勢についてのレポートを受領していた元大蔵省の某氏からは、米国の情報機関筋から得た情報として「ロシアは100%ウクライナに侵攻する」との情報を得ていた。その違いは何であったのか。ソ連/ロシア研究者の多くは、なぜ侵攻はあり得ないと考えていたのだろうか。ある研究者は、「ウクライナ侵攻は政治的整合性が全くなく、全く論理的にメリットがないことであって、これをやることによって何の得もない。 どう考えてもそんなことを、まさか政治家(プーチン)が行うのかに非常に大きな疑問を感じていた。」と、ロシアの侵攻後に率直に書かれていた。それはロシアの政治が、合理的な判断に基づいて行われるという期待感の表れであったのだろう。しかしながら「ソ連から切り離された社会主義」「社会主義から切り離されたロシア」はあり得ず、現に「ソ連」という国があったという歴史的事実、そして「ソ連型社会主義」なる社会体制が70年余もの期間にわたって存続し、今もロシア社会に根深く存在し、プーチン政権もそこに依拠していることを直視しなければならないだろう。

一方で米国からの情報は、米国のインテリジェンスのもたらした「事実」に基づく情報であったからこそ、それが現実化したのだと思う。台湾有事という危機を抱えている我が国の外交的判断においても、また企業の経営判断においても、我々が教訓としなければならないことがここにある。

旧興銀時代、断続的ではあるがソ連/ロシアを担当し、ソ連時代にソ連の国有銀行、公団等への融資、そして返済繰延等の交渉、そうした苦い教訓にもかかわらず、欧州銀と合弁でモスクワにIMB(インターナショナルモスコウバンク)の設立等に関わった経験から感じた「ソ連/ロシアという国」について何回かに分けて書きたいと思っている。

私がソ連ロシアという国との関わりを持ったのは、私が旧興銀で1982年に本店で国際本部に異動し、東西ドイツ及びその周辺国とそして東欧/ソ連を担当することになった時である。東独や東欧にはすぐに何度か出張に行った後、83年に当時の調査本部長の出張に同行して、初めてソ連(モスクワ、レニングラード(今のサンクトペテルスブルグ))の地を踏むこととなった。西ベルリンから国境を越えて東ベルリン、そして東ベルリンのシェーネフェルド空港からモスクワのシェレメチェボ空港経由でモスクワ入りした。
生まれて初めて訪れたモスクワは、とにかく暗い淀んだ街というのが第一印象であった。その前に訪問した東欧諸国では、修復されていない古びた建物も多かったが、歴史ある建物も数多く残っており、モスクワの巨大だが特色のない街並みは別世界であった。物資も乏しく、街中には買い物のための長蛇の行列が見られた。なぜこうした国が米国と並ぶ超大国として、世界の覇権を争っているのか理解できなかった。ソ連崩壊から30年、継承国ロシアは、大国の復活を目指すプーチン大統領のもとで、再び強権体制へと傾いている。(2へ続く)

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